無彩色なキミに恋をして。

たとえ娘でも
父の考える事が今は特にわからない。
たぶん誰より1番理解していたのは、燈冴くんだと思うから。
悔しいけど…それくらい”社長秘書”の存在は大きい。

「そっかぁ…
 まぁあの社長なら自分で全部出来そうだもんね。
 秘書も必要ないか」

『なんか納得』と案外あっさり引き下がってくれたから、これ以上この話題を掘り下げる事もなくホッとした。
深い意味はないけれど
なんとなく燈冴くんの事を知られたくなかったから。
私が彼を好きだって事も…。


エレベーターが1階に到着し扉が開き
これでようやく解放してもらえると安堵したのに
彼はまだ何かあるみたいで『あ、そうだ』と呼び止められた。

「社長から聞いたけど
 仕事が終わる時間は18時なんだって?
 迎えに来るから待っててね」

お父さん…
なんて余計な事を言ってくれたんだろう。

「だから結構ですって。
 1人で帰れます」

「ディナー」

「は?」

「フレンチを予約したから
 今夜一緒に行こうよ」

「えッ!?」

ウィンクしながらのほぼ強制的な誘いに
なんでそんな事してくれたのかと顔に出たんだと思う。

「そんなに嫌がらないで?
 社長からも『お互いをよく知るように』って言われているんだしさ」

嫌悪感漂うわたしの心を一瞬で読まれた。
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