無彩色なキミに恋をして。

拒絶しきれなかったのはわたしの悪い所だと思う。
押しに負けて、18時ちょうどに朝と同様
会社の前に車を停めて待つ鮎沢さんに連れられて
勝手に予約されたレストランに向かっているのだから。

「鮎沢様、お待ちしておりました」

到着して早々、入り口で頭を下げているのはたぶんディレクトール(責任者)
『いつも悪いね』と返事をしているあたり
彼の行きつけなのがすぐわかった。

セレブ御用達のような高級フランス料理店。
クラシックの音楽に(とき)が優雅に流れ、右を見ても左を見てもマダムや紳士がワイン片手に上品に談笑している。


なんだろう…場違いにしか思えない。

「お酒は飲めるのかな?」

「い、いえ…あまり…」

「じゃぁノンアルコールカクテルにしようか」

丸テーブルに通されるなり手慣れた様子でオーダーする彼は、まるで自分のお店かのようにスマート。

「さて…
 じゃぁさっそく緋奈星さんの事を教えてもらおうかな」

ニコりとこちらに向ける笑顔意味深さを感じる。

「なんですか…
 抽象的な質問でよくわかりませんが…」

「些細な事だよ。
 どんなモノが好きで、興味があって
 普段どんな事をしているのか、とか
 ただのお見合いの延長だと思ってよ」

怪しい…
凄く“裏”がありそうな人で
あまり教えたくない。
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