無彩色なキミに恋をして。

お手洗いはこの会場の外。
出入口には万全の装備をした警備員がいて
事情を話せば、たぶん間違いなく同伴確実。 
ううん、それどころか医療チームとか呼ばれ兼ねない。


燈冴くんに声なんて掛けたら
それこそ商談の邪魔をしちゃう。
たかがお手洗いに行きたいだけなのに
大事になるのは凄い困るし、それに…
気分的にも今は独りになりたい。

「よし、逃げよう」

意を決したわたしは小さくガッツポーズを決め
まるで牢獄から逃亡でもするかのように
誰にも気づかれずに会場の袖へと移動。
ホテルスタッフがいる中で『父に呼ばれていまして。オホホ…』なんて都合よく使い(逆に怪しまれたけれど)裏口からスッと出る事に成功。

案外楽勝だった気がする。

ドレスの裾を少し持ち上げ
ピンヒールをカツカツと廊下に響かせながら
会場と逆方向の通路奥へと一直線に小走り。

こんな姿を父に見られたら絶対怒られる。
だけど鬼気迫る今の状況に
そんな悠長な事を言ってる場合じゃなかった。




――――数分後。


「ふぅ…治まった」

迫りくる吐き気から解放されて
洗面所で手を洗いながら鏡を見るなり
今度は別の意味で気分が悪くなった。

「そうだった…
 ジュエリー着けたままだ…」

鏡越しに光り輝くネックレスに溜め息が1つ。









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