無彩色なキミに恋をして。

何か1つでも墓穴掘って鮎沢さんに弱みなんかを握られたらそれこそ思う壺だと思い、わたしは絶対に父と燈冴くんの事は話さなかった。


家で話せないのなら
また社長室に乗り込んで直接聞こうと試みた。
けれど大概が鍵か掛かっていて留守だし
総務部に確認しても『ちょっと聞いていなくて…』と門前払い。

役職のある社員ならもちろん社長の現状は把握していると思うけど
”家に帰って来ない父親が心配で娘が理由を知りたがっている”なんて、父自身(あの人)が知ったら絶対に嫌がる。
子供じゃないんだからそんな事で捕まえるのもどうかと思うし。

「まさか新しい彼女が出来た…とか?」

社長室の前で恐ろしい考えが頭を過ったときは
わたしが自分を疑った。

現状それは考えにくい。


サポートがいない今
自分の仕事以外にもやらなくてはいけない事が山ほどあると思う。
秘書のいない間のタイムスケジュールとかは
父はどうしているんだろう。




同日22:00――

「今日も帰って来られないんですかね…」

ずっと心配そうに父の事を気に掛けてくれているハウスキーパーさんを玄関で見送る。

「とりあえず帰ってきたら連絡を入れますね…」

彼女の言葉が切なくもなるけど
わたしが言える事はそれだけなのが歯がゆい。


< 151 / 232 >

この作品をシェア

pagetop