無彩色なキミに恋をして。
…と、ちょうどその時。
玄関のロックが開く音がし、ゆっくりと扉が開いた。
「お父さん!」
「旦那様ッ」
わたしもハウスキーパーさんも、父の顔を見るなり今帰宅かと驚いたというのに。
当の本人は無反応が過ぎて
それどころかまるで他人事。
「なんだ、2人揃って化け物でも見るような顔をして」
化け物って…
人の気持ちも知らないのに、何この酷い言い草。
「最近全然帰ってこないから、わたしもお手伝いさん達もみんな心配してたんだよ」
「子供じゃないんだ。
仕事で帰らないくらいでいちいち大騒ぎするな」
迷惑極まりないとでも言いたげに怪訝そうな表情で
ネクタイを緩める動作をしながら光沢輝く革靴を脱いで玄関をあがる。
そうなれば今仕事を終えたハウスキーパーさんも
『仕事再開』と言わんばかりに父から荷物を受け取ったり、脱いだ靴を綺麗に整えたりと大慌て。
挙句、夕飯の準備をするなんて言い出して
キッチンに逆戻りだ。
「そうですか。
じゃぁ勝手にすればいい」
階段を上がっていく父の後ろ姿に
ムスッとした顔をしながら聞こえないように呟いて
わたしも部屋に戻る事にした。
態度も悪ければ、人使いも荒い父の事なんて
心配して損するだけ。
わたしは燈冴くんと違って物わかりがいいワケでも
優しいワケでもないから。