無彩色なキミに恋をして。
さすがにこれだけ存在感のあるモノを
『忘れていました』って事はないけれど
慌てて飛び出してきたから取り外せなかった。
これはまずいよね…絶対。
冷静になってみると血の気がひくよ。
それでなくても会場から黙って飛び出した事だけでも怒られそうなのに、お手洗いに高価な品を持ち出したなんてバレたら・・・
「うん。戻ろう」
父と燈冴くんにさえ気づかれずに
何事もなかったように戻れば問題ないはず。
”ただそれだけ”と高を括って
わたしは来た廊下を戻ることにした。
それなのに
邪魔が入ったんだ―――
「あ、やっぱり社長のお嬢さんですよね?」
お手洗いを出るなり
入り口で出待ちしていたのは40代くらいの1人の男性。
「いや~、たまたまトイレに入っていくところを見掛けまして。まさかこんなところでお嬢様に会うとは思いませんでしたよ」
首から下げている一眼レフのカメラを手に
ニヤニヤしながら近付いてきた。
誰だか知らないけれど他の客とはどこか違うってのはわかる。
見た目で判断するのは申し訳ないけれど
だけどネクタイのないスーツをボタンも留めず
腕まくりをしてラフな状態にしているあたり
社長の取引相手ではないと直感したから。
たぶんバイヤーか
或いは雑誌のカメラマン。