無彩色なキミに恋をして。

わたしを呼ぶのは
紛れもなく燈冴くん。

驚く間もなく彼は私達の前に壁のように立ち
お互いの姿も見えないよう遮断してくれた。

それはまるで
本物のヒーロー。

「緋奈星さま
 大丈夫ですか?」

彼の顔が見れて
わたしの目を見てくれて
そして優しく声を掛けてくれるから
それだけで一気に安心感に包まれた。

だけど燈冴くん
たぶんすごく怒ってる。
一見すると表情はいつも通りなのに
目が据わってる。

「燈冴くん…」

名前を呼んだだけなのに
ただそれだけなのに
瞬きを忘れた瞳からは一筋の涙が溢れ
同時に急激に押し寄せる恐怖の波で
カタカタと寒くもないのに震えが起こり腕を抱えた。

自分の感情がわからなくて
コントロールが出来ないなんて情けなく思う。
そんなわたしにそっと自分のスーツのジャケットを掛けてくれた燈冴くん。

「少しだけ待っていてください。
 すぐに片付けますから」

そう一言を添えて。

ワイシャツのボタン部分に取り付けてあったピンマイクに向けて『警備員を――』と喋ったかと思えば、男の方を振り返った。

「緋奈星さまに何をされていたんですか」

「いぃぃぃえ!僕は何もッッ
 何もしていませんッ!」

2人の顔は見えないけれど
相手の焦り声でわかる。

燈冴くん、めちゃくちゃ怒ってる。



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