無彩色なキミに恋をして。

父が倒れたことをいい事に買収の話を勝手に進めようとしている鮎沢社長。

挙句、あんな風に言われて…

「悔しいよ…」

「こうなる前になんとか手を打つつもりで考えていたんですが…緋奈星さまには、あの場面は見せたくなかった…」

燈冴くんはベッドの横に立ったまま
わたしの髪に触れながら優しさをくれた。

「これから…どうなるの?
 会社も、お父さんも…
 全部奪い取られるなんて…嫌だよ」

「緋奈星さま…」

腕の中に抱き寄せて『大丈夫』と髪を撫でるてくれるから、また涙が溢れてくる。

触れる指先に、優しい声。
支えてくれる腕に甘えてしまいながら
唇にキスを落とす彼を受け入れていたーーーーー


そのあと、気分的に仕事をする気になれなかったけど、わたしに出来る事なんてないから
心配してくれる燈冴くんにお礼だけ伝えて
定時まで業務を続けたのだけど
つい考えてしまって手が止まる、なんて事
何回かあった。

キリの良いところまで片付けたあと
鞄を片手に社員達に挨拶を済ませ
エレベーターでエントランスまで降りてきて初めて
雨が降ってる事に気がついた。

「やっぱり降ってきちゃった」

朝から薄曇りでいつ降ってきてもおかしくなかったから、そっかぁくらいの気持ちでタクシーを捕まえた。



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