無彩色なキミに恋をして。
普段の夜はハウスキーパーさんが仕事を終えて帰ったあと、夕飯もお風呂も済ませた頃に燈冴くんが帰ってくる。
今日もそう。
ただちょっと彼の帰りがいつもより少し遅いってだけなのに
こんな時に限って、どうして見知らぬ人影なんて見てしまったんだろう…
「気のせい気のせい」
そうやって自分に言い聞かせても
あの影が何なのか好奇心を持ってしまうのも人間の性かもしれない。
人影が勘違いだったのか気になって
1度は締めたカーテンをほんの少しだけ開け
窓の外を覗いてみると今度はその姿は見えない。
やっぱり気のせいだったのかな…
ソファの背もたれに掛けていたストールを巻いて階段で1階に降り、誰もいない静かな廊下を歩いて玄関の横に位置する窓から外を見渡した。
すると、やっぱり人の影が…
距離が近いのもあって
今度はちゃんと、その人物を捉える事が出来た。
…が、正直ビックリしたんだ。
「鮎沢…さん?」
もしわたしの見間違いじゃなければ
鮎沢芹斗さんの姿だった。
それも雨の中、傘もささず――――
「このままじゃ風邪ひいちゃうッ」
鮎沢さんだとわかった瞬間
さっきまでの恐怖なんてなかったかのように
わたしは玄関の横の傘立てから1本ブルーの傘を差し
扉のロックを外して外へと飛び出していた。