無彩色なキミに恋をして。
23時近くなった外は風も吹いているせいか寒さが増しているのに、その中でずぶ濡れになっている鮎沢さんは着ているスーツまで全身水を吸って、より一層冷たく見える。
「鮎沢さんッ!?
こんな時間にいったいどうしたんですか!?
それもこんなに濡れてッ
傘はさしてこなかったんですかッ!?」
慌てて駆け寄って傘で雨を遮っても
本人は俯き加減で微動だにせず
髪から垂れる雫が顔に滴っても気にする様子が全然ない。
「鮎沢さん…?」
反応がなさすぎて心配になって顔を覗き込むと
彼は空虚な目で地面を一点に見つめている。
その焦点は合っているのかすらわからないほど真っ黒な瞳。
こんな姿、見た事がない。
普段は車を使っているはずなのに
辺りを見回しても見当たらないところから
どうやら歩いてここまで来たみたい。
でもこんな時間に?
雨が降ってるのに傘もささずに?
それに…
どうしてわたしの家に来たの?
わからない事が多すぎる。
だけど只事じゃないっていうのだけは伝わる。
それが何なのか…
「何か…あったんですか…?」
こんなところで聞く事じゃないかもしれないけど
たぶん彼はこのままじゃここから動かないと思った。
だから…と思い尋ねてみると
鮎沢さんは顔を上げて今度はわたしの目を見ながら言う。
「緋奈星さん、ごめん」