無彩色なキミに恋をして。
この人は確かに親が勝手に決めた婚約者だけど
理由がどうであれ、わたしを助けてくれようとしてる。
親子関係があまり良くないのに
鮎沢さん自分のお父さんの買収計画を止めようとしてくれている。
精一杯の誠意を伝えようとしてる。
だから今、ここにいる。
こうして頭を下げているんだよね…
「あなたは…いい人なんですね」
「え…?」
「わざわざそれを言いに
傘もささずに来たんですもんね?
その気持ちがわかっただけでも嬉しいですし
あなたのことを少し誤解していましたが
今は――――」
言い終わる前に鮎沢さんはわたしの腕を引いて
自分の体へと引き寄せた。
「え…」
持っていた傘が宙を舞って地面に静かに落ちていき
遮るものがなくなったわたし達に冷たい雨が容赦なく当たる。
だけど今はそんなの気にする余裕もなく
ただただビックリして動けない。
だって…鮎沢さんに抱きしめられているから…
「どう、したんです?」
「ごめん…今だけ、嫌がらないでほしい」
消え入りそうな囁く声だけど
抱き締める腕だけは力強くしっかりしてる。
「キミに怒られると思った…」
「そんな事…」
「ありがとう…本当にごめん…」
何度も何度も謝罪の言葉を口にするから
わたしもどうしたらいいんだろうって
背中を摩るしか出来ない。