無彩色なキミに恋をして。

鮎沢社長がいなくなるや否や
わたしは溜めていた疑問を吐き出すように声を張った。

「落ち着きなさい、緋奈星」

「落ち着いてなんてッ」

「私も知らなかったんだよ。
 まさか後任を言い出すとは…。ねぇ、燈冴くん」

「え…」

『はぁ…』と溜め息を1つ吐き
父は燈冴くんの方を振り返って複雑に笑みを浮かべると、燈冴くんは深々と頭を下げる。

「前以てご相談もせず突然にあのような発言をしてしまい、申し訳ございません」

「いや、もともとはそのつもりだった事だ。
 その件は後ほど話をしよう。
 それより…」

燈冴くんに向けていた視線を今度は鮎沢さんに移す。

「こんな事になってしまい、申し訳ない」

軽く頭を下げて謝罪の言葉を口にする父に
鮎沢さんは驚いた表情で目を見開き、父に問う。

「不正という話は…本当なんでしょうか」

と。すると父は、ゆっくりと首を縦に振って答えた。

「間違いはない。
 …横領の恐れがある」

「え、そんな…」

鮎沢社長が…横領?

わたしは1人、あまりの衝撃から絶句していたけれど、燈冴くんもそれこそ鮎沢さんも至って冷静で動揺の色も見えない。
特に鮎沢さんは…。

「それが本当ならば、このままではいけませんね」

ピリッとした緊張感を漂わせ
父の言葉に何か影響でも受けたような意味深さを含む発言を残し、『僕もこの辺りで失礼します』と一礼して背を向けた。








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