無彩色なキミに恋をして。
そんな彼の運転で仕事に行くところなんて
あまり周りに見られたくないんだよね。
しかもこの“社長専用車”
フルスモークで目立つし。
「車の免許くらい取ろうかな…」
窓ガラスにコツンと頭をつけボソっと呟けば
隣でタブレットを操作していた父に『何を急に言い出すんだ』って睨まれた。
今のわたしには必要がないって思っているのかも。
…とは言え
敵視される要素を少しでも無くしたいとこ。
「おはようございま…す」
会社に着いて挨拶すれば
一瞬、ジロリと突き刺すような鋭い視線に苛まれ
苦笑しながらの1日が始まる。
わたしの会社内での立場は
あくまでまわりと同じ正社員。
父が社長だからと言って役職があるわけじゃなければ
特別ポジションでもない。
まぁ、あの(厳しい)父がそんな事をするはずもないんだけど。
それでも他の人達からしてみれば
やっぱり社長の娘っていうのは癇に障るのかもしれない。
1人浮いているのは重々承知。
それが現実っていうのも、よくわかってる。
それも仕方のないこと。
「…って、そうだ。
車に資料を置いてきちゃった」
自分のデスクでバッグを広げて思い出した。
今日のデザイン制作においての重要な会議で使う資料がない事に。