無彩色なキミに恋をして。
―――――
―――…なせ様
夢なのか現実なのか
その狭間に耳に入った声に薄目を開けると
ぼんやりとした頭にまた、声が届いた。
「緋奈星さま」
「うわっ!!」
寝起きだと言うのに燈冴くんの声だってわかった瞬間
一瞬で目が覚めた。
急いで頭を上げて離れたけれど
途中からの記憶がない事から
肩を借りたまま完全に眠っていたんだって気付いてパニック。
「ああああああ!
ご、ごめん!!重たかったよね!?」
「いいえ?
大丈夫ですよ」
「で、でもッ」
「久しぶりに緋奈星さまの寝顔が見られて
むしろ嬉しかったです」
『最近、朝も起こしに行けなかったので』と付け加えられたが。
嬉しかったって…
この人は何をしれっと…
「さすがに耳元で寝息が聞こえたときは
少々マズかったですが…」
困ったような笑顔を向けられても…
いったい何がマズイの?
「まぁそれは良いとして…
そろそろ到着しますので行きましょうか、緋奈星さま」
「あ、うん…」
何か言い掛けていたんだろうけどそれ以上言う事はなく、コホンと咳払いを1つする燈冴くん。
『この人が話を誤魔化すなんて珍しいな…』なんて呑気に考えながら、差し出された手を取り開いたドアから駅のホームへと歩き始めた。