無彩色なキミに恋をして。

「まさかとは思いますが
 ご自身の身分を明かしたりはしていませんよね?」

「も、もちろん!
 アルバイトって答えたし…」

「私もこちらでは”執事”ではありません。
 気を付けてください」

ズバッと痛いところを突いてくる。
でも間違った事は言ってないから言い返せないし
弱みを握られている気がする…。

「では、この話はこれで終わりです。
 夕方にはホテルに戻りますよ。
 私も社長と明日以降の打ち合わせをしないといけないので」

「うん…」

スッと席から立ち上がった燈冴くんに
『緋奈星さま』と呼ばれて顔を上げると
彼の表情はいつも通りの穏やかさに戻っていた。

「先程の方とは
 何か波長が合ったのですか?」

「え…?」

「緋奈星さまが楽しそうに見えたので。
 話が合う相手だったのかなと。」

“波長が合う”
そう聞かれて考え直してみると
確かにそうなのかもしれないって感じる。
なりたい夢があって前向きに一生懸命に努力している姿は、こっちが勉強になった。
わたしも頑張らなきゃって思えたから。
だから…

「そう…だね。
 彼女の話を聞いて学んだ事もあるよ。
 ここで実際に接客して
 出会った人から話を聞けたから
 わたしにとっては良い経験だと思う」

ちゃんと思ったことを伝えると
燈冴くんは『それなら良かったです』と笑顔を見せてくれた。
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