無彩色なキミに恋をして。
どうして戻ってきたんだろ?
忘れ物でもしたのか彼女は何かを伝えようと
身振り手振りを交えてパクパクと口を大きく開き
一生懸命に声を出している。
だけど車の音にかき消されて上手く聞き取れないし
慌てているように見えるから急を要するんだと思ったわたしは…
「燈冴くん、ちょっとごめん」
「え、緋奈星さま?」
車のドアを開けたまま燈冴くんをすり抜けて
本格的に降ってきた雨のなか道路まで駆け寄ると
元宮さんも左右確認しながら車の流れが止まるのを今か今かと待っている。
行き交う車が徐々に減ってきたタイミングで
彼女はまた、声を張って叫んだ。
「間に合って良かった!
さっき言ってたデザイン画!
どうしても今見せたくて戻ってきちゃいました!」
え…今持ってきたの?
その為にわざわざ?
明日って言っていたような気がするんだけど…
左手に傘をさし
右肩には恐らくデザイン画の入っているトートバッグを持って
車が来ない一瞬を見計らって走り出す元宮さん。
けれどそれがいけなかった。
右からは来ていなかったのに
ちょうど私の目の前
左からはトラックが走ってきたんだ――――
「待ってッ!元宮さんッ!!」
無我夢中だった。
叫びながらわたしの体は前へと進み
車の前に飛び出す寸前で誰かに背後からグイっと腕を掴まれ、後ろへと引き戻された。