無彩色なキミに恋をして。

運転席で電話をする彼に憐れむような眼差しを向けながら『そんなのあんまりよ』と嘆く彼女は
さっきまで落ち込んでいた人とは思えないくらいの変わり様。

まさかそんな事を言われるとは思わなかったから
ただ愕然と、衝撃を受けた。
再度『漣さん』と呼ばれても
返事の声も出せず視線だけを向けるだけしか出来ないほどに。

「私、彼を…真白さんを好きになってしまいました。
 だからもっと
 彼を自由にしてあげてください」

『じゃないと可哀想』だと
元宮さんの目力がとても強く鋭く訴えていて
体の奥、深い部分まで凍りつく。

燈冴くんを好きってーーーー




執事としての燈冴くんをそんな風に思う人がいて
実際に言葉にされたのは初めてで。

最初から薄々は気づいていた。
わたし自身、燈冴くんの事をほとんど知らない。
1日24時間365日、ほぼ一緒に生活しているせいで
彼の”プライベート”と呼べる時間を見た事がない。

けれど聞いた事がなかった。

燈冴くんが何が好きなのか
何をしている時が楽しいのか。

それが元宮さんの言うように
自由を奪っているのかもしれないって
苦しめているという事なんだって
長いこと彼と共に生活してきたのはわたしなのに
どうして目を背けていたんだろうーーー







 
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