無彩色なキミに恋をして。
「緋奈星さま」
電話を終えた燈冴くんが窓を開けてわたしを呼ぶその声に、まるで呪文を解かれたように呆然としていた頭が現実に引き戻された。
ゆっくりと彼の方へと目を向けると
燈冴くんはジッとこちらを見つめていて
それはどこか不機嫌そう。
「今…行きます」
呼ばれた返事に対して声を振るわせ
元宮さんにも『失礼します』と頭を下げて
1度も目を合わせず逃げ出すように後部座席へと乗り込み、俯いたまま車は発車した。
後ろめたい気持ち。
元宮さんに対しても
そして、燈冴くんにさえもーーーーー
耳に残る『自由にして』と“好き”
彼女の言葉が何度もリピートして頭から離れない。
8年もの歳月を
わたしや父は燈冴くんから自由を奪って
呪縛し働かせてしまっているのだろうか。
彼自身が何も言わないのは
言えない環境を作ってしまっているから?
実際、燈冴くんがどう思っているのか
そもそもどうして父の執事になったのか
その経緯も、ちゃんとは知らない。
以前に少し尋ねたとき彼は多くは語らなかったけれど、意味深に呟いていた。
“拾ってもらったから
その恩返しをしないといけない”
その時は
『何か特別な意味があるかもしれない。
でもこれ以上は話してくれないだろうから』と
深くは考えていなかった。