冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
……ん?
「……かわいいって? 私が?」
「そうだ。かわいい。初めて会ったときからずっとそう思っている。ひと目惚れして告白して、妻になってもらえて感無量だ。毎日家にいてくれて幸せで恐くなる。これ以上求めるのは時期尚早だとジータに忠告されたが、何度か眠っている芽衣の横で自分を慰めたこともある。その件は悪いとは思っているが反省してもなかなか止められない。白状するとキスをしたのも今が初めてではなく──」
「あの、待って待って! ちょっと待ってください!」
これまで経験したことがないほど心臓が跳ね上がっており、ジータがいたらおそらく「心拍数がえらいことになってますよ?」と心配されるだろう。
というか、この状況はなに? 冷静な口調でとんでもないことを言われている。
ひと目惚れは設定ではなかったの? 告白ってなんのこと? まさかあのビジネスちっくな提案のこと?
自分を慰めたって? キスが初めてじゃないって?
「……ち、ちなみに何回目なんですか。私にキスするの」
噴水のように湧き出る疑問のうち、始めに口から出たのはそれだった。
瀬川さんはらしくなく目を泳がせ、「えっと」などと口ごもる。怒られる前の子どものように私と目を合わせ、
「……は、八回目、だと思う」
と白状した。