冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす

トロイメライの白とアリスの水色だけではなく、行き交う車の色、街灯に飾られたフラッグの黄緑、隣の花屋には無限の色があった。

情報量が多すぎて、一瞬思考が停止する。

『ハンカチ、落としましたよ』

アリスはワインレッドのハンカチを差し出した。

──なぜだ。

なぜ、彼女は鼻にホイップクリームをつけているんだ。

『あの?』

首をかしげる動きととも左右に動く鼻先の白から目が離せない。
今俺の前で鼻にホイップクリームをつける理由が不明すぎて、もうなにも考えられない。

『ちょっと』

彼女が一歩近づくと、俺の心臓はグッと音を立てる。
俺に近づく人間の見栄やプライド、自分勝手な理由は手に取るようにわかるのに、彼女の底抜けの奇妙さは俺の理解を越えている。

『ひゃっ……!』

すると無重力のように広がったスカートとともに、ふわりと浮いた彼女の体は俺の方へ飛び込んできた。
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