冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
第7話 さようなら







それから数日が経ち、私は職場に復帰した。
アルバイトのふたりと響子さんたちにいろいろ聞いてくるお客さんもいたが、「なにも知らない」で通してくれたらしい。

しかし瀬川慧の嫁を見ようとするお客さんはいまだに来店する。
表には立たず、しばらくは裏方で店長を手伝うこととなった。

「芽衣ちゃんごめんね、五番テーブルのお客さんに、ブラックコーヒーだけ淹れてきてくれる?」

「はい」

閉店間際、店内はやっと空き始めた。残り少ないお客さんのうち珍しくパンケーキを頼まなかった男性に、手の空いた私はコーヒーを淹れに行く。

ストライプのスーツを着たその人に「お待たせしました」とコーヒーカップを置くと、「どーも」と薄ら笑いを浮かべた声が返ってきた。

この声どこかで聞いたことがある。

戻ろうとした足を止め、その人の顔を見ると、

「覚えてるか? 瀬川の奥さん」

パーティーで瀬川さんと喧嘩していた桐生さんだった。

< 116 / 143 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop