冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
「なっ……なんですか、お店まで」
「心外だな。俺はコーヒーを飲みに来ただけだが?」
カップを浮かせてこちらへ見せつけ、わざとらしく口をつける。
「そうですか。ではごゆっくり」
「待てよ。ネット見てるぞ。有名人じゃねぇか奥さん。パリコレから声かからない?」
ムカつく!
SNSでの有象無象ではなく目の前の人に言われると腹が立ち、立ち去れずにテーブルで「桐生さんこそ暇なんですか?」と言い返す。
「べつに興味なんてねぇが、こんだけ叩かれて可哀想になったから慰めに来てやったんだよ」
「よけいなお世話です」
「それで、マジな話。なんで瀬川と結婚することになったんだ?」
本当に真剣な顔つきに変わり、私の手首を掴んできた。
この五番テーブルは奥まったところにあり、ホールからも外のガラスからも見えにくくなっている。誰も絡まれていることに気づかない。
あまり騒がれたくない話でもあるし、私は声を潜めて答えた。