冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす

私が不審なほど慌てていたからか、彼は外側の自動ドアの近くまでゆっくりと歩み寄ってくれる。

いきなり走ったせいでパンケーキが戻りそうになるが、どうにか呑み込んで「あの」と握っていたハンカチを彼に差し出した。

「ハンカチ、落としましたよ」

顔ひとつ分以上の身長差がある彼を見上げ、覗き込む。
驚いたのかなかなか返事をしてくれず、綺麗な目を丸くして私を見ていた。

「あの?」

そんなに見つめられたら、なんだか恥ずかしい。走って髪が乱れてしまっているし、彼と並ぶにはこのワンピースだって安物すぎる。
近くで見るといっそう精巧な造りだとわかる瀬川さんの顔とは、長い時間見つめ合いたくない。

いいかげん受け取ってくれないかな、と思い、「ちょっと」と一歩踏み出す。

すると、履き慣れない白のヒールを思いきり突っ掛け、私の体勢は前方へカクンと崩れた。
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