冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
伝票を挟んだ小さなバインダーをテーブルの端に置いた。
これ以上桐生さんの席で話し込むわけにはいかない。
「……それは自分でたしかめます。もう閉店ですから、飲み終わったら帰ってください」
「待て」
もう一度手首を掴まれ、今度は引き寄せられた。
こちらの不安を見透かすような桐生さんの眼差しが至近距離に迫ったが、私は流されてしまうのが怖くて力いっぱい押し戻す。
「離してください!」
「おい、待てって。なにかあったら話くらい聞く。だからもうアイツに入れ込むのはやめろ」
キッチンへ逃げ戻り、桐生さんの会計が終わるまでそこから動けなかった。
瀬川さんを悪く言わないでほしい。あちらが私を利用したというのなら、私だって同じだった。最初は愛のない結婚をするつもりだったのだ。
それを承諾しておいて、今さら愛がないのが怖くなるなんて。
そんなのはあまりにも勝手すぎるだろう。