冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
……瀬川さん。
『そしたら、芽衣さんはその方の代わりなんですか?』
「バカなことを言うな。代わりになるわけないだろ。まったく別だ」
一歩ずつ、うしろへ下がった。
力が抜けそうになりながら、どうにかリビングへと戻ってくる。
瀬川さん、やっぱり忘れられない人がいるんだ。
こうなったら直接話すしかないと思っていたのに、先にこんな形で本人の口から聞いてしまった。
代わりにすらなれない。私はやっぱり、瀬川さんに愛されるわけなかったんだ。
真っ暗な中、力なくソファへ沈む。クッションを抱き抱えて顔を押し付けた。
「……うっ……」
泣くな。泣いたってなにも変わらない。チンチクリンも、ムチムチの二の腕も、最悪のファッションセンスも、ひとりで開業する勇気のない卑怯な自分も。そしてそれを瀬川さんに期待して勝手に傷ついている弱い自分にも。
損得で考えて感情的になってはならないのなら、私はきっと経営なんて向いていないのだろう。
瀬川さんが正しいなら、そうなのだと思う。