冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
「ひゃっ……!」
エントランスから綺麗に整備されたレンガの歩道へ、私は顔から倒れて鼻を削り取られるだろうと覚悟をした。しかし衝撃はなく、代わりにお腹にグッと硬いなにかが食い込む。
「……危ない」
食い込んだ痛みは一瞬だけ。それが私を支えてくれた瀬川さんの腕だとわかると同時に、上から彼の声が降ってきた。
なんて素敵な声。テレビで見ているから初めて聞いたわけではないはずなのに、直接聞くと心地よく響く。
私を雑に抱える体勢はすぐに直され、今度は彼と向き合うようにしっかりと腰と背中を支えられた。
「す、すみませんっ……」
こんなかっこいい人に抱きとめられるなんて、そうそうあることじゃない。
ドキドキする胸を抑え、しっかり見上げ、目を合わせての謝罪をした。しかし彼の手はいつまでも離れず、それどころか視線も離れない。
「あの……?」
また喋らない瀬川さんに戻ってしまった。見つめあったまま時が過ぎていくが、この体勢は周囲の人を誤解させるのではないかと気づき、力を入れて彼の腕から逃れる。