冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす

「どうもすみませんでした! これ、ハンカチです」

彼の手にハンカチを握らせ、大きく腰を曲げてお辞儀をする。
恥ずかしくて顔を上げられず、終始その上品な手を見つめていた。

「では、私はこれで失礼します」

背を丸めたまま足早にバイキング会場へと戻りながら、少し残念な気持ちになった。にこやかに、とまではいかなくても、お礼を言ってもらえるんじゃないかと思ったから。

もとの席に座ってもほんの少しの煮え切らない気分が消えず、クリームが崩れたパンケーキも美味しそうに見えなかった。

気を取り直してナイフとフォークを持ち、行儀が悪いがクリームを高く盛り直す。なんだかさっきよりも不格好になった気がする。

ため息をこぼしながら背もたれに寄りかかり、肩の力を抜いた。
ふと、視線を外へと持っていく。

「……え」

エントランスの外には、まだ、瀬川さんが立っていた。
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