冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす

ホールからも「瀬川社長ってこんな人なんだ」「全然ロボットじゃないね」「超純粋じゃん」と続々と声が上がる。

『幼い頃はたしかに、母を作るという気持ちがありました。ですがこの通りジータは失敗ですし、今は違います』

『失敗って言わないでくださいよ』

『今は……誰かとの別れがあっても、誰かと出会えるのだと知りました。妻に出会ったので』

えっ。

画面の瀬川さんと目が合った。

『いろいろと誤解があっても、それが嘘でも事実でも、俺は妻を愛しています』

隣から、キッチンのふたりから、そしてホールの大勢から、私に向けられる視線をじりじりと背中に感じた。

「だとさ」

桐生さんは肘で私をつつく。
やめてよ。これ以上泣いたら腫れて目がなくなっちゃう。

『瀬川さん、すごいですね……そこまで聞いていないのに愛妻家っぷりを発揮されてしまいました。ではさらに惚気ていただきましょう。今、奥さまになにを伝えたいですか?』

彼の瞳は潤み、まっすぐにこちらを捉える。カメラを通しているのに、また私が映っている。

『……〝出会った場所で待ってる〟』

瀬川さん──。

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