冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
ホールでは大きな歓声が上がった。
私は桐生さんに「ほら行け!」と背中を押され、店長と響子さんに「いってらっしゃい!」と手を引かれてホールへと連れ出される。
拍手に出迎えられ、「瀬川社長が待ってるよ!」「もうなにも気にしないで行ってきて!」とたくさんの手が私の背中を押した。
私が涙を拭い大きくうなずいて、「行ってきます!」と走り出す。
──『ホテルトロイメライ東京』。
エントランスへ続く赤レンガの道。
街灯のフラッグの黄緑、隣の花屋の色とりどりの花たち。
その先には大好きな人が立っているはず。
あそこで出会ってすべてが始まった。
生放送はどうしたんだろう。
アナウンサーさん、今回もうまくやってくれたかな。これからも瀬川さんをよろしくお願いしますという気持ちと、ちょっぴり苛立っているであろう彼女へごめんなさいの笑みがこぼれる。
「来た!」
そう騒ぎだしたのは、エントランスに集まる何人ものパパラッチ。
フラッシュの嵐の中を、待っている彼のもとへ駆けていく。
「芽衣」
エントランスの階段を降りてくる彼は眩しいくらいの笑顔で、あと十メートルというところで、腕を広げて待っている。