冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす

店長が鍋でバターを溶かす横で、奥さまの響子(きょうこ)さんがひたすら卵を割ってボールに入れていく。そばにあるさらに大きなボールには、これから混ぜられる大量の小麦粉が控えていた。

私は赤いチェックシャツに黒のパンツという地味な格好で出勤し、すぐに会計カウンターの奥にある従業員スペースへと入る。

順番で使うひとり用の更衣室と、そこに繋がったソファのある休憩室、さらにそこから吹き抜けになっている店長と響子さんが経理で使う小さな事務所ブースがある。

事務所のテレビの音を流し聞きしながら、更衣室で白シャツに着替えた。パンツはそのままで、胸に『くりぃむの森』と刺繍された深緑のエプロンを着ける。

ひとつに結った髪には、最近響子さんに作ってもらったくるみボタンのヘアゴムを重ねづけする。すごくお気に入りで、店頭の持ち帰りクッキーとともに百円で売っているものだ。
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