冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
控え室へ戻ろうとカウンターへ入ったとき、カランカランと入り口のベルが鳴った。
「あらあらお客さん、ごめんなさいね、もう閉店の時間で──」
なぜか響子さんの声は途中で途切れ、キッチンで寝かせておく生地を混ぜていた店長の手も止まる。
どうしたんだろう。閉店だから帰ってもらうしかないと思うのだが、ふたりは入り口を見つめたままポカンと口を開けている。不思議に思った私も、やって来たお客さまを振り返った。
「瀬川と申します。……ああ、いた。三澄芽衣さん」
外のライトアップがまるで後光のようだった。グレーのスーツに青いネクタイ、薄い黒の鞄を手に持った瀬川さんが、まるで似合っていない『くりぃむの森』のマットの上に立っている。
「……へ」
「事後報告になりました。俺と結婚してもらえませんか」