冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
「ジータ。テレビを消せ」
キスを中断し、彼は言う。この声のコンマ数秒後にテレビは消えた。
背もたれの向こう側に〝ζ(ジータ)〟がいるのだと初めて気づき、私は「え」と声をもらす。
暗転した六十インチのスクリーンには押し倒された私とのしかかる彼の様子が反射している。背後に映っているジータも、無機質な姿でピコピコと佇んでいた。
それをまるで映画かなにかのようにボーッと見つめながら考えた。
どうして私が、この人の妻になれたんだろう。
すると画面の中で彼の手が私のフレアスカートの中に差し入れられた様子が映り、太ももの内側に実際に触れられた甘い感覚が走る。
「あっ……」
「芽衣。本物を見ろ」
お叱りを受けて、実物に目を戻す。本当にテレビで喋っていた瀬川さんと同一人物だろうか。
冷たい陶器のような肌はすっかり紅潮し、ピクリともしなかったはずの眉はハの字にゆがみ、そして熱い吐息とともに肩を上下させている。
「瀬川さん……」
情熱のこもった愛撫を受け入れる。彼の指先はとても器用だ。それは経験値というより、彼の繊細で丁寧な性格を感じて胸がキュンと鳴った。