冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
トロイメライだけじゃなくて? 銀座の『プワロン』にも、大阪の『ぱんちっくカフェ』にも、北海道の『しっとり亭』にも連れて行ってもらえるの?
「もしよければ、キッチンには業務用の道具を揃えます。専用グリドルやエスプーマも用意しますが」
「えぇー!?」
私より先に店長が乙女のような声を上げた。瀬川さんは確認のために「ここのキッチンではなく、俺の家のキッチンにです」と付け加え、店長は肩を落とす。
まずい。完全に結婚に気持ちが傾き始めている。というかもう傾いてしまった。たぶん結婚する。
でも、愛し合ってないのに──。
「三澄さん」
「は、はいっ」
「俺は過去に起業する上で、いくつか代償を支払いました。金と時間と労力。なにかを得るにはなにかを犠牲にするのだと痛感しました。三澄さんにとって、それはなんだと思いますか?」
──この人は私がたどり着かない最適な答えを先に提示し、自分の思い通りにことを運ぶ。
私が支払う代償は愛なのだ。それはあきらめるべきだということ。夢を叶えるサポートをしてもらえる上に愛のある結婚をしたいだなんて、たしかにワガママだと自分でも感じる。
「……わかりました。私でよければ結婚しましょう、瀬川さん」
きっと世の中、そんなに甘くない。