冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす

苦しくなって胸を叩いて耐えた後、なんとか顔を上げて瀬川さんを見上げる。

タイミングもそうだけど、〝芽衣〟という呼び方の衝撃がすごかった。私を呼び捨てにするのは両親や女友達しかいない。耳の奥へ入り込むような瀬川さんの声にまさか私の名前を呼んでもらえるなんて。セクシーすぎて足が震えてきた。

彼は私へ視線を落とし、まっすぐ見つめている。

「ごめんなさい、びっくりして……いきなり呼び捨てにされたので」

「夫ならそうするのかと。婚姻届を出してからでなければダメですか?」

またよくわからないことを聞いてくる……。呼び捨てのことならかまわない。婚姻届を出す前に慣れておいた方がいいと思うし、私は「いいえ」と首を横に振った。

「大丈夫ですよ。呼び捨てでいいですし、敬語もいりません。私はかなり年下ですし、瀬川さんの好きに扱ってもらえれば」

「……好きに?」

彼の目が開き、なんでかポケットから手を出した。声色も変わった気がする。
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