冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす

マスクのせいでどんな表情をしているのかわからないが、トロイメライで見つめられたときに似た視線を向けられている。瀬川さんって本当に、なにを考えているのかわからない。

乗るときに彼がボタンを押した二十五階に到着したのに、ドアが開いても本人は降りることを忘れてボーッと立っていた。「あのー」と声をかけ、やっと歩き出す。そのとき手首を掴まれ、一緒に引っ張られた。

「瀬川さんっ?」

抱きしめられたときを除けばまともに触れ合ったことがなかったため、彼の強引な手の感触にドキッとする。

名前を呼んでは誰かに聞かれてしまうと思い、引っ張られていない方の手で自分の口を塞いだ。

広く間隔の開いた扉のうち、一番奥の角部屋に向かって進んでいく。
彼はドアノブの近くの黒いタッチパネルを三本指で触れ、指紋を認証させた。
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