冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
「芽衣」
「は、はい……」
ふやけるほど視線と指先で顔をなぞられた私は、見つめてくる彼の静かな瞳を、腕の中からぼんやり眺める。
「直接聞く。今から抱いてもいいか?」
「ふぇっ」
たぶん、脳みそが頭蓋骨の中でぐるっと一回転したと思う。
三半規管もやられて、彼の腕から体が跳ねて飛んでった。
冷たい床にへたりこむと、ピッコンピッコンと音を鳴らしながら手らしき白いボディを差し出して『早すぎますよネェ?』と喋ったジータを前に、さらに頭が痛くなってくる。
「無理やりする気はない」
『少し強引でしたよ』
「だからちゃんと聞いただろ」
『答えはノーみたいですよ。ほら、怯えちゃってる』
ちょっともう、待って。意味不明が大渋滞で、私には処理しきれない。
夫となる人の家に一歩入っただけなのだが、仕事終わりと同じくらいにどっと疲れた。
「……瀬川さん。とりあえず、お部屋に入りませんか……」
絞り出した提案に、彼はうなずき、「わかった」とつぶやいた。