冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
黒のソファに隣り合って腰掛けると、背丈と脚の筋肉量から、細身の彼も私とは大きく差があるのだと実感した。
この人がいつか私を抱く気でいるというだけで、ドキドキしておかしくなりそうだ。
ジータが器用にティーカップとポットをトレイで持ってきて、紅茶を淹れてくれる。
指先まで再現された彼女の手は、ティーセットに当たるとカチンと音を立てるが滑らかに動く。
カモミールのいい香りのおかげで、この非現実的な光景にもほんの少し慣れてきたかもしれない。
「さっきの件ですが……今からはちょっと、むずかしいです」
目を合わせられず、唇の先っぽでつぶやく。
「なぜ?」と聞かれてしまう予感がし、
「もう少しお互いを知ってからにしましょう。ね?」
と先手を打つ。
彼は少し黙り込んだ後、前髪を微かに揺らして「そうか」と返事をした。
「今日はいろいろと結婚に向けての打ち合わせをするのかなと思って来たので、なんだかビックリしました」
遠回しに〝抱てもいいか発言〟の意図を尋ねたつもりだったが、
「打ち合わせとは?」
と聞き返された。