冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
『お母さん、お父さん。瀬川さんは今は会社のことで忙しいから、先に入籍だけ済ませてほかのことは後からやろうと思うの。いいよね?』
『えーえー、そうね。社長さんだもの、お忙しいでしょう。今度ゆっくり東京へうかがいますから』
すっかり上機嫌になった両親は、この結婚の裏事情など気にも留めずに勝手に妄想を膨らませ始める。
母は通っているフラワーアレンジ教室に報告すると言い、父は職場である市役所に報告すると言う。
『すごいなぁ、芽衣は社長夫人か』
満面の笑みを浮かべてうなずく父に、私は複雑な気持ちになった。
『……でも私、夢はあきらめてないよ。瀬川さんもそれは納得してくれてるの』
父と母はキョトンとした顔になって止まる。
瀬川さんも私を見ていた。
飲食店経営を夢見て修行にかまけている娘より、社長夫人として優雅に暮らす娘の方が安心だろう。また「そんな夢を見るのはやめなさい」「いつもでも甘えていてはダメだ」と説教をされる。
しかし両親の反応は意外なもので、『いいんじゃないか? カフェの開店!』と、これまた満開の笑顔で手を叩いて賛成し始めた。