冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
彼の横顔を見るたびに考えが読めないと感じて不安になるのだが、もしかしたら本当になにも考えていないのではとも感じている。
釣り合いなんてどうでもよく、仕事のためと割りきっているのかもしれない。
私が彼の評判を下げる妻なのは間違いないが、瀬川さんがそれを恥だと思わないのなら、とても助かる。
「瀬川社長。いつも大変お世話になっております」
「こちらこそ」
そして先ほどから、瀬川さんは主催企業の役員やゲストと思われる人たちから次々に挨拶をされている。
会場に入ってから一歩歩けば誰かに声をかけられるといった具合だ。
私は瀬川さんの一歩うしろに隠れながら会釈をするだけで精一杯で、「へぇ、その方が奥さまですか?」と興味を持たれても会話をする前に次々に人が入れ替わっていく。
窓際に来てやっと落ち着いたころを見計らい、改めて会場を観察した。
「瀬川さん。取引先のパーティーとおっしゃいましたが、どんな会社さんなんですか?」
「『株式会社トップ・エール』。コンサルティング会社だ。起業前に俺も在籍していた」
「ええ? お勤めだったってことですか?」