冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
私は三澄芽衣、二十五歳。
上京して初めて食べたパンケーキの素晴らしさに心を打たれ、いつか自分の店を持ちたいと願うようになった。
食べ歩きはもちろんのこと、個人経営のパンケーキ有名店で店員として雇ってもらい、現在修行中である。
仕事中はひとつに結っている肩までの黒髪も、ホテルに相応しくきれいにトリートメントし、毛先を内巻きに整えてきた。
決してナイスバディとは言えない背の低い体格も、なるべくレディに見えるよう、今日はとっておきの綺麗めワンピースを身に付けている。
……でもやっぱり、どうにも私だけ浮いている。
いもくさいのか、垢抜けていないのか。はたまた子どもっぽいのか。
とにかく、普段からこのホテルを利用していますと言わんばかりの周囲のラグジュアリーな人々とは、どうにもワンランク劣って見える。
だいたい、女性ひとりで泊まっている人が見当たらないし。
すると背後から「見て、あの人」という声が聞こえ、噂をされているような気がして振り返ってみる。
しかし、噂の的は私ではなかった。
そこには、ステンドグラスの模様が描かれたティーカップに口をつけ、ひとりだけさらにワンランク上、もう華族かなにかではないかというロイヤリティな容姿の男性がひとり、長い脚を組んで座っていた。