冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
「瀬川さんっ……なにか言ってください」
決して目を逸らさないのに反応を見せない彼についに恥ずかしさが溢れ、ボディラインを隠すように手を沿える。
やはりダメだったのだろうか。自分ではいつもより何倍もよく見えたのだが、私ごときがしていい格好ではなかったのかも。
「……芽衣」
彼はつぶやいて一歩近づくと、すでにジャケットを着ている私にさらにジャケットを掛けた。
「瀬川さん?」
「今日はもう十分だ。帰るぞ」
「え!?」
帰るって、まだ来てから一時間も経っていないのに。
「どうしてですか? ご挨拶はいいんですか?」
「いつでも顔を出せるからいい。妻がワインをかけられたんだ。途中で帰る理由には十分だろう」
「私なら大丈夫ですよ」
「……いや、ダメだ」
せっかく華やかに仕上げてくれたスタイリストさんが戸惑う横を、彼は私の肩を抱いて過ぎ去っていく。
彼女はなにがダメだったのかと困惑している様子で、私も同じ心境で顔を見合わせていると、
「芽衣のこんな姿は、誰にも見せられない」
頭上の彼からそんな言葉が降ってきて、頭が真っ白になった。