冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす

「……わ、やだ」

スマホ画面にこぼれた涙に動揺して目もとを拭う。しかし泣いてはダメだと思えば思うほど、涙が止まらなくなった。

「うっ……ううーっ……」

お店を出すためにした結婚。誰が見ても釣り合っていないし、愛されてもいない。そんなこと初めからわかっていた。

でも、自分なりに前に進んでいける気がしていたのだ。瀬川さんを素敵だと思う瞬間はたくさんあるし、私のパンケーキで彼を笑顔にできた。特別な言葉もくれた。
相容れない関係ではない。きっと時間が経てば本当の夫婦になれる。そんな予感がした。

でも、それは誰が見てもあり得ないのだと客観的な言葉で我に帰る。
勘違いも甚だしい。瀬川さんが私を好きになる理由がひとつもないのに。

どうしてこんな気持ちになるんだろう。

痛めつけるネットの言葉にショックを受けているのは事実だが、私はその先に瀬川さんとの未来がないことへ絶望している。
彼はこれまで一度も私を否定しなかった。私がコンプレックスに思ってきたことは彼からしたらコンプレックスではないという鈍感さが心地よく、安心できた。
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