冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
瀬川さんが問題ないと言えばなにも問題はない、そう思える。今まで自分を肯定してくれる人は自分しかいなかった。
彼にそんなつもりはなかったかもしれないけど、瀬川さんはある日突然私の世界に現れた味方だったのだ。
この気持ちは、もうきっと──。
「芽衣」
声とともに扉がノックされ、体が強張った。
瀬川さんに呼ばれると「は、はいっ」と反射的に返事をしてしまい、彼は中へと入ってくる。
「すみません、顔も見せずに」
「いや。俺も書斎にいて気づかなかった。シフトが入ってなかったと聞いた」
彼は背を向けたベッドへと回り込み、急いで目もとを擦る私に「おかえり」と声をかけてくる。
「……た、ただいま、です」
彼の表情が固まった。涙は拭い去っても、肌の赤みはとれなかったのだろう。
在宅勤務中にかりそめ妻に泣かれ、迷惑この上ないはず。
きっと鼻まで赤くなって不細工になっているに違いない。これ以上、私の残念な姿を晒したくないのに。