思っていたのと 違うのですか‼︎


午後になり、智が出社する。

「お帰りなさませ」
「顔を出したら、すぐに帰る」
「お車を手配しておきます」

部屋に入り、不在時に溜まった書類に目を通していると、根津がコーヒーを運んできた。

「お帰りなさませ」とコーヒーを置く、書類から目を離さず「あぁ」とだけ答える。

通常ならすぐに退出するのだが、根津は出ようとしなかった。

「あ、あの!」

智が顔を上げると、根津は息を飲み覚悟を決めましたと話し出す。

「実は、私よくベリーヒルズのカフェに行くんです」

今朝の話か?今ここで?智の前に私に話すのが筋だはないのか?

智の眉間に皺がよる。

蛇に睨まれた蛙の様に固まっている。


「それがなんだ」ドスの効いた声を発する智。

部屋がピリ着くのを肌で感じる。

「そこでよく奥様を見かけるんです」
「で?」

両肘を机の上に立て、両手を口元で組みながら根津を見ている。

「いつも男性と一緒にいらっしゃって・・・厚い封筒を渡していらっしゃってて・・・
大きな紙袋を受け取って、若い男の子に抱きついたりしていて・・・」

勢いよく話し出したはいいが、ドンドンと声が小さくなる。

秘書として仕事をしているのなら、最初から最後まではっきりと報告して欲しいものだ。

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