猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~
「結子さんの事、本当に愛しているんですね」

「はい。勿論です」

三毛さんは、私の問いに一つの曇りもない瞳で何も迷いもなく力強く頷く。

それを見た瞬間私には、心がジリジリする様なヒリヒリする様な何とも言えない感情がこみ上げて来て、咄嗟に「でも……」と突っ掛かってしまった。

「はい?」

「それで良いんでしょうか?」

「……どう言う事ですか?」

私の言葉に三毛さんの表情が曇る。瞬時に「あ、やめておけば良かった……」と後悔したけどもう遅い。

私は止まらなかった。

いや、『止まれなかった』の方が正しいかもしれない。

「三毛さんは、喜びや悲しみを誰かと分かち合いたいって思わないんですか?」

私は、いつだったか楓が言っていた事を思い出した。

「奥様を未だに愛し続ける事は、とてもステキな事です。でも、結子さんはそれで幸せなんでしょうか?三毛さんに前に進んで欲しいって、結子さんがいなくても幸せになって欲しい、って、願ってるんじゃないんですか?」

私は続けた。

「私、三毛さんに出会ってから今日まで、三毛さんの本当の笑顔を見ていないです。そんなの、結子さんは望んでいないハズです。心から愛した人には、心から笑って欲しいって、そう思っているんじゃないんですか?」

どうしよう……。

もう止めた方が良いって分かってるのに、口が止まらない。

「忘れろなんて言いません。私、三毛さんと知り合って半年しか一緒にいませんが、三毛さんが結子さんの事をどれだけ愛しているか知ってます。でも、それごと……結子さんを愛したままの三毛さんを愛してくれる人が、必ずいます。その人と一緒に喜んで、時に悲しんで……。そんな生活を、結子さんも望んでいるんじゃないんですか?」

私は息を切らし、今まで溜まっていた鬱憤(うっぷん)を晴らすように、一気に捲し立てた。

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