猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~
「ここって……」

私達は交差点に立っている。

結構車の往来があって、歩道はサラリーマンやOL、学生たちも歩いていた。

私の問いに、三毛さんが何も言わずにその場にしゃがみ込んだ。そして、さっきここに来る途中で買った小さめの花束を電柱に寄り掛からせながら置き、手を合わせる。

「三毛さん……」

手を合わせている三毛さんの背中に声を掛けた。何も言わずに立ち上がりこちらを向いた三毛さんの目には、薄っすら涙が溜まっている。

予測は付いているけど、私は三毛さんの言葉を待った。

「……お察しの通り、ここは結子さんが事故にあった現場です」

ああ、やっぱりそうか……。

三毛さんが置いた花の他にも、真新しい花束が2つほど置かれていた。多分、他の犠牲者の遺族の方たちが置いて行った物だろう。

「すみません。こんな所に実森さんを連れて来てしまって……」

三毛さんが申し訳なさそうに顔をしかめて頭を下げたので、私は咄嗟に、全然大丈夫です!と言って首を振った。

……言ってはみた物の、流石にちょっと動揺を隠し切れない。どこでもお供致します!とは言ったけど、まさか事故現場に連れて来られるとは思ってもみなかった。

顔を上げた三毛さんは私の言葉を聞いてちょっと安堵したのか、表情が少し和らいでいる。

「本当にすみません」

「いえっ!ホント気にしないで下さい!」

「ありがとうございます」

力なく笑った三毛さんを見て、ふと疑問に思った。
< 56 / 106 >

この作品をシェア

pagetop