猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~
「でも、私なんかが一緒に来て良かったんですか?」

基本的に、結子さんの事を語ろうとしない三毛さん。少しでも詮索するような事をすれば、笑顔で話を逸らされる。

それなのに、私はここに三毛さんと一緒にいて良かったんだろうか?

(もしかして……)

本当は一人で来たかったのに、私が「暇してます!」なんて言ったから仕方なくここに連れて来たんじゃ……、と不安になった。

でも、三毛さんの返答は違った。

「はい。他の誰でもない、実森さんに居て欲しかったんです」

「え……」


――『他の誰でもなく、実森さんが良かった』――


そう言われて、私は不謹慎にも嬉しくなってしまった。

その嬉しさが表情に出ちゃいそうになり、必死で抑える。

そんな私を他所に、三毛さんがポツポツと話始めた。

「今まで、ここに近付く事すら出来なかったんです。どうしても、事故の光景が頭に浮かんで……足が、竦んでしまって……でも、今なら大丈夫な気がして…実森さんが一緒なら、って、思っ……」

話している途中で事故の光景がフラッシュバックしたのか、三毛さんが震える手で口元を押さえた。顔色も、どんどん悪くなって行っている。これは一人で舞い上がっている場合ではない。

「大丈夫ですか?無理しないでください」

「す、すみません……こんなつもりじゃ、なかったんです……もう、大丈夫だって……」

そう言って、また俯いてしまう。

普段はキリリと姿勢よく凛とした佇まいの三毛さん。だけど今は、背中を丸くして体を小さく震わせている。

そんな姿を見て、私は心臓を締め付けられた。
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