猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~
私もしゃがんで手を合わせる。

生憎なにも持っていないから、手を合わせるだけになっちゃうけど……。

(結子さん。三毛さんが力強く生きて行ける様に、見守っていて下さい。どうか、どうか……)

そう強く願っていると、

――『伸ちゃんをよろしくね』――

と、どこからか声が聞こえた気がしてパッと顔を上げた。

キョロキョロ辺りを見回しても、ここには私と三毛さんの二人だけ。

「実森さん?どうかしましたか?」

三毛さんが、この私の行動を不思議そうな目で見ている。

「あの…今、声が……」

「声?」

三毛さんが首を傾げた。

どうやら私にしか聞こえていなかったみたいだ。

「あ……いえっ、なんでもありません!行きましょうか!」

もしかしたら私の空耳だったのかもしれない。

だとしたらなんて説明して良いのか分からないから、話を逸らして歩き出した。

「あ、待って下さい!」

「置いてっちゃいますよー」

追いかけて来る三毛さんに笑って手招きをした。

多分……いや、絶対にあの声は結子さんの声だと思う。じゃなきゃ、あんなタイミング良く聞こえるなんてありえない。一瞬だったけど、とても優しい穏やかな声だった。

だとしたら、本当にあの声が結子さんの物だったら、やっぱり結子さんも三毛さんの幸せを願っている。私は確信した。

(やっぱり、私の勘って当たるんだよ。三毛さん)

追い付いた三毛さんと並んで歩きながら、そう思った。
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