猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~
「はぁ……」

午前中の混雑が一段落したお昼休憩。

私の注意不足のせいで割れたコップたちを見てため息が出た。こんなに盛大に失敗したのは初めてかもしれない。

てかさ、これって三毛さんが不意打ちで私をドキドキさせたのが悪くない?

いや、私がしっかりしてればこんな事にはならなかったのは重々承知なんだよ。でもさ、『実森さんが嬉しいと僕も嬉しい』なんて言われたらさ、喜びもするし照れもするさね。

隣で機嫌良くカップを磨いている三毛さんをチラッと見る。

結子さんの事故現場に一緒に行った日から、確実に三毛さんの態度は変わって来ていた。

喜怒哀楽を表に出す様になったし、結構思った事をそのまま口にする様になった。

それはとても喜ばしい事だと思う。

でも、さっきみたいに不意打ちで来るからこっちの身が持たない所もある。

最近では、これっていい線行ってるんじゃなかろうか?って期待をしているのも事実で。

だからと言って失敗ばかりはしていられない。私から手伝うと大見得《おおみえ》切ったのだから、ちゃんと仕事はこなしたい。

よしっ!と気合を入れ直してコップを片付け様と思ったら、隣で三毛さんが「あ……」と呟いた。

「どうかしましたか?」

「あ、いや……午後からお店開けるのに足りない食材がいくつかあったのを思い出して……」

そう言いながらカップを磨く手を止め、エプロンを外し始めた。

「あ、買い物リストを渡してくれれば私行ってきますよ?」

午前中も結構混んだから、磨くグラスやカップが結構溜まっている。

私が引き継いでも良いんだけど、今日はグラスやカップを無事で済ませられる自信がない。

「でも……」

「買い物くらい出来ますよ!任せて下さい!」

「……じゃあ、お願いしても良いですか?」

「はい!」

三毛さんはちょっと渋った顔をしていたけど、大丈夫!と私が押し切ってメモに書かれた買い物リストを受け取り、買い物に出掛けた。
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