猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~
実森さんが買い物に出掛けて30分以上が経った。

「遅いな……」

拭き終わったカップを棚に戻しながらボソッと呟く。

スーパーはここから歩いて2分程度。

実森さんの足でも然程変わらない時間だと思うけど、どうしてこんなに時間が掛かっているんだろう?

「買い物の量だってそんなに多くはないのに」

頼んだ物は、スティックシュガーと牛乳。後はディナーメニューに必要なカレー粉と豚の引き肉だけ。

20分と掛からず帰って来れるハズなのに。

「どこかに寄り道でもしてるのかな……」

指をコン…コン…コン…とテーブルに打ち付けて時計を眺める。

「ニャー」

僕のちょっとのイライラと焦りを空気とテーブルの振動で感じ取ったのか、さっきまで日向ぼっこを楽しんでいたアールがその指にすり寄って来た。

「アール……。ごめんね。うるさかった?」

「ニャーン」

頭を撫でると、アールがグッと体を縮めてお尻と尻尾をフリフリし始める。

あっ…と思った瞬間、肩にピョンッ!と飛び乗って来たので慌ててキャッチした。

「わっ!も~、アール。危ないっていつも言ってるだろう?」

「ニャー」

僕の耳元に顔を摺り寄せ、ゴロゴロと喉を鳴らす。

どうやらご満悦らしい。

「ふふ。アールはいつもポカポカだね」

いつも日当たりの一番いい特等席で日向ぼっこをしているせいか、アールはいつもポカポカで太陽の匂いがする。

「あそこはアール専用だも……」

言い掛けて、アールのベッドが置いてある窓際を不意に見た瞬間、一台の救急車がサイレンを鳴らしてスーパーの方へ向かって行くのが見えた。

ドクンッ――!と心臓が脈を打ち、全身にゾワゾワと鳥肌が立った。

僕はアールをベッドに戻し、勢いよくお店から飛び出した。
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